をおりて、森のほうをさして歩きだした。
森のかなたには小さな川がある。もしこの地に人が住んでいるなら、川口に舟の一そうや二そうは見えべきはずだが、いっこうそれらしきものも見えない。ふたりがだんだん森をわけてゆくと、樹木は太古《たいこ》のかげこまやかに、落ち葉は高くつみかさなったまま、ふたりのひざを没するばかりにくさっている。右を見ても左を見ても、人かげがない、寂々寥々《せきせきりょうりょう》、まれに飛びすぐるは、名もなき小鳥だけである。
森をいでて川にそうてゆくと、びょうびょうたる平原である、これではまったく無人島にちがいない、むろん住むべき家があるべきはずがない。
「やっぱり船にとまることにしよう」
ふたりは船へ帰って、一同にこのことをかたり、それから急に、修繕《しゅうぜん》にとりかかった。船はキールをくだかれ、そのうえに船体ががっくりと傾斜《けいしゃ》したものの、しかし風雨をふせぐには十分であった。まず縄梯子《なわばしご》を右のふなばたにかけたので、幼年組は先をあらそうて梯子をおり、ひさしぶりで、陸地をふむうれしさに、貝を拾ったり、海草《かいそう》を集めたりして、のどかな唄《うた》とともに、活気が急に全員の顔によみがえった。
モコウはさっそく、サービスの手を借りて、じまんの料理をつくった。富士男、ゴルドン、ドノバンの三人は、もしも猛獣《もうじゅう》や蕃人《ばんじん》などが襲来《しゅうらい》しはせぬかと、かわるがわる甲板に、見張りをすることにきめた。
翌日富士男は、おもむろに持久《じきゅう》の策《さく》をこうじた、まず第一に必要なのは、食料品である。船の所蔵品をしらべると、ビスケット、ハム、腸《ちょう》づめ、コーンビーフ、魚のかんづめ、野菜《やさい》等、倹約《けんやく》すれば二ヵ月分はある。だがそのあいだに、銃猟《じゅうりょう》や魚つりでもっておぎないをせねばならぬ、かれは幼年組につり道具をやって、モコウとともに魚つりにだしてやった。
それからかれは、他の物品を点検《てんけん》した。
大小の帆布《はんぷ》、縄類《なわるい》、鉄くさり、いかり一式、投網《とあみ》、つり糸、漁具《りょうぐ》一式、スナイドル銃八ちょう、ピストル一ダース、火薬二はこ、鉛類《えんるい》若干《じゃっかん》。
信号用ののろし具一式、船上の大砲の火薬および弾丸《だんがん》。
食器類一式。
毛布、綿、フランネル、大小ふとん、まくら。
晴雨計二、寒暖計一、時計二、メガホン三、コンパス十二、暴風雨計《ぼうふううけい》一、日本国旗と各国旗|若干《じゃっかん》、信号旗一式、大工道具《だいくどうぐ》、はり、いと、マッチ、ひうち石、ボタン。
ニュージーランド沿岸《えんがん》の地図、世界地図、インキ、ペン、鉛筆《えんぴつ》、紙、ぶどう酒。
英貨《えいか》若干《じゃっかん》。
正午《ひる》ごろにモコウは、幼年組をつれて、たくさんの貝を拾って帰ってきた、モコウの話によると、岩壁《がんぺき》のところに、数千のはとが遊んでいるというので、猟《りょう》じまんのドノバンは、あす猟にゆくことにきめた。
この夜は、バクスターとイルコックが、甲板《かんぱん》に見張りした。
そもそもこの地は、はなれ島であるか、大陸つづきであるか、それをきわめることがもっともたいせつである。富士男は毎日その研究に没頭《ぼっとう》していたが、ある日ゴルドン、ドノバンのふたりにこういった。
「どう考えてもここは熱帯地でないように思う」
「ぼくは熱帯だと思うが、きみはなんの理由でそんなことをいうか」
と例のドノバンは、まず反対的態度《はんたいてきたいど》でいった。富士男は微笑しながら、
「ここには、かしわ、かば、まつ、ひのき、ぶなの木などが非常に多い、これらの樹木は太平洋中の赤道国《せきどうこく》には、ぜったい見ることができない樹木だ」
「それじゃどこだというのか」
「まつ、ひのきのほかの木がみな、落葉したり、紅葉したりしてるところを見ると、ニュージーランドよりも、もっと南のほうの高緯度《こういど》だろうと思う」
「もしそうだとすると」とゴルドンは、双方《そうほう》の争《あらそ》いをなだめながら、
「冬になるとひじょうに寒くなるだろう、いまは三月|中旬《ちゅうじゅん》だから、四月の下旬までは好天気がつづくだろうが、五月(北半球の十一月)以後になると、どんなに気候が変わるかもしらん。そうすると、とてもぐずぐずしていられない、おそくとも六週間以内にはこの地を去るとか、ただしは冬ごもりをするかを、きめなければならん」
いかにもゴルドンの心配は、むりからぬことである。さすがのドノバンも、だまってしまった。
いまは、一日のゆうよすべきばあいでない、富士男は毎日、丘にのぼって、四方を展望《て
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