った。イバンスはふたたび一同を見まわした。
「十五人か、しかもみずからふせぐことのできるのは、五、六人しかない」
「いま、悪漢《あっかん》どもが襲撃《しゅうげき》してくるのですか」
と富士男がいった。
「いや、いまということはないだろう、だが……」
「ね、イバンスさん、子どもらがかわいそうです、救ってやってください」
とケートがいった。
「もちろん! ぼくは悪漢どもをやっつけますよ、けれど今晩はもうだいじょうぶです。このあらしでは、まさか川もわたれますまいからな」
くまのように魁偉《かいい》な男ではあるが、どことなくものやさしい、目は正直《しょうじき》そうな光をおびている、一同はかれの態度《たいど》になにかしら心強さを感じた。
「おう寒い!」
とかれはからだをふるわした。
「これを着かえなさい」
とケートがありあわせの服を持ってきた。
「ありがとう、ついでになにか食べ物がいただけませんか、きのうからなにも食べないのです」
モコウが走って、食堂からやき肉、固《かた》パン、茶、および一|杯《ぱい》のブランデーを持ってきた。
「やあ、ブランデーか! ぼくはもう二ヵ月も飲まない」
とかれは目を細めてコップをとると、ごくりと一息にあけた。
「うまいな! やき肉に固パンか、なかなかのごちそうだな」
こういうとかれは、目にもとまらない早さでペロリとたいらげた、一同はかれのすばやい食べ方に目を見張《みは》った。
「やっと人間らしくなった」
「もっと食べますか?」
とモコウがいった。
「ハハハ、もういいんです、これから食べはじめたら、底なしですよ、諸君の食べ物がなくなってしまうよ、ハハハ」
「おじさんはまるでくまのようだ」
と幼年組がいった。一同は笑った。
「ぼくらは早く海蛇《うみへび》らの動静《どうせい》が知りたいのです、そして今後の方針を定めなければならない、おじさん、左門洞にのがれるまでの話をしてください」
とゴルドンがいった。これは一同が早く聞きたいところである。
「早く聞かしてください!」
と一同がさけんだ。
「よろしい、話そう、だが左門洞とはいったいなんです?」
「ぼくらが命名したこの洞の名ですよ、前の川が、ニュージーランド川です」
「ホウ! それぞれ名まえがついてるんですね、それは改めてひまのあるとき聞くとして」
イバンスは茶をひとすすりして語りだした。
「ぼくらは数日間は、伝馬船《てんません》の修復《しゅうふく》に手をつくした、だが、なにぶん修繕《しゅうぜん》に必要な道具が不足である、そのうち、食物がなくなってくる、水が飲めない、ぼくらは修繕するのをよして、船は雨風のあたらない場所にかくし、食糧《しょくりょう》を求めるために浜辺にそって南下した、行くこと十九キロばかりで一|条《じょう》の小川の口に達した、ぼくらはむさぼるように水を飲んだ、水はとてもおいしかったよ」
「その川は東方川というんです、そして川のそそぐところを失望湾というんです」
とサービスがいった。
「清い水は飲みほうだい、ぴちぴちした魚はたくさんとれる、ぼくらはここに住まいを定めることにした、伝馬船《てんません》は浜辺づたいにひいてきて、川口につないだ。
ぼくらは船をたいせつにした、ただ一つの修繕《しゅうぜん》道具があれば、船はよういに手入れができ、いつでも島を去ることができるのだからね、船は命の親だからね」
「洞には修繕に必要な道具が揃《そろ》っています」
とドノバンがさけんだ。
「そうだろう、海蛇《うみへび》らはちゃんとにらんでる」
「でもおかしいな、海蛇《うみへび》はぼくらのことはなにも知らないと思うが?」
とゴルドンがふしぎそうにいった。
「おどかしちゃいやだよ」
とひとりがいった。
「それがゆだん大敵さ、ぼくはなにもおどかしなんかはしない、これはほんとうだからね、敵がどこにひそんでるかは神さましか知らない。ぼくはどうかして海蛇《うみへび》の毒手《どくしゅ》からのがれようと胆《たん》をくだいた、が、かれらはなかなか厳重《げんじゅう》に警戒《けいかい》して目をはなさない、時機を待つよりしかたがない、ぼくは遁走《とんそう》をあきらめてかれらの命令どおりにした、数日前、ぼくらは堤《つつみ》をさかのぼって茂林のなかに進んだ、とぼくらは、枝にひっかかったえたいの知れない油布《あぶらぬの》でつくったらしい、巨大なたこのようなものを発見した」
「ああそれはぼくらがつくったたこです」
とドノバンがさけんだ。
「海蛇《うみへび》はためつすかしつして見ていたが、思わず大声でさけんだ。『これは人間がつくったものだ、この島にはおれたちのほかに、いく人かの人間が住んでる、おれたちは早くさがしださねばならないぞ』
ぼくはこれを聞いて心のなかにさけ
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