「これは天下の名馬になるんだ」
「そんなものは役にたちません、食べてしまうほうがいい」
サービスとモコウがあらそっているのを見て、ほかの少年たちはサービスをからかった。
「サービス君、きみはこのだちょうを名馬になるなるというが、いっこうに名馬にならないじゃないか」
「あわれなる友よ」とサービスは妙な声でいった。「千里の馬ありといえども、伯楽《はくらく》なきをいかにせん、千里のだちょうありといえども、きみらには価値《かち》がわからない」
「文句をいわずに乗って見せたまえ」
「しからば乗って見せてやろうか、だちょうの快足とぼくの馬術を見て、びっくりしてこしを抜かすなよ」
サービスはこういって、だちょうの首をしずかになでた。
「おい、しっかり走れよ」
かれはまず、その首に手綱《たづな》をつけた、それから両眼に目かくしをかけ、バクスターとガーネットにひかせて、しずしずと広場の中央にあゆみよった。
一同はかっさいした。サービスは得意満面《とくいまんめん》、やっと声をかけて、だちょうの背に乗らんとしたが、だちょうがおどろいてからだをゆすったので、つるつるとすべって、草の上にどしんと落ちた。
「やあ、どうした、天下の大騎手《だいきしゅ》」
少年らはうちはやした。
「だまって見ておれ」
サービスはかくかくとのぼせあがってどなりながら、五、六回|転落《てんらく》ののち、やっとだちょうの背中に乗った。
「どうだい」
とかれは一同を見おろして微笑《びしょう》した。
「いよう、うまいうまい」
「これから走るところを見せてやるぞ、びっくりしてこしをぬかすなよ」
「見せてくれ」
「ようし」
サービスは手綱《たづな》をとって、だちょうの目かくしをはずした。その一せつな! だちょうはかなたの森をさしてまっしぐらに走りだした。脚《あし》は長し、食には飽《あ》きたり、自由を得ただちょうの胸には、春風吹きわたり、ひづめの下には春の雲がわく。
「やあやあ、天下の名馬!」
少年たちはあっけにとられてかっさいした。と同時に、サービスの声がはるかにきこえた。
「助けてくれい」
一同はわれさきにと走った。サービスは林のなかに投げだされて、だちょうは影も形もない。
「おい、どうした」
とガーネットがいった。
「うん」
「天下の名馬はどうした」
とゴルドンがいった。
「うん」
「どうしたんだ」
前へ
次へ
全127ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング