われの食料とは無関係《むかんけい》だ」
「なるほど」
 だちょうはサービスに一任することにきめた。この日はとうとう物置きに適当《てきとう》な洞《ほら》を発見することができなかった。そこでバクスターの考案《こうあん》で、洞《ほら》の内部の壁のやわらかいところをほって、室をひろげることにした。壁のやわらかいところには、木材の支柱《しちゅう》をほどこして崩壊《ほうかい》をふせぎ、年長者はつるはしをふるい、年少者は岩くずや石きれを運んでは、洞の外にすてた。
 三十日の午後には、五、六尺のトンネルができた、と、とつぜんふしぎな事件が出来《しゅつたい》した。
 富士男はトンネルの奥で、しきりに壁《かべ》をほっていると、どこやらに奇妙《きみょう》なうなり声をきいた。
「なんだろう!」
 ゴルドンもバクスターも、同時にその声をきいた、三人はすぐドノバン、イルコック、ウエップ、ガーネットの年長連《ねんちょうれん》をよんで相談した。
「なんでもないよ、洞《ほら》のなかだからなにかの反響《はんきょう》にちがいない」
 とドノバンはいった。一同はふたたびつるはしをふるってほりつづけた。と夕方になると、さっきよりもっと近くに、なにものかほゆる声がきこえた。
「いよいよ変だぞ」
 声がおわらぬうちに、フハンはあわただしく洞のなかをかぎまわったが、とつぜん疾風《しっぷう》のごとく洞《ほら》の外へ走り去った。一日の労役《ろうえき》をおわって一同は晩餐《ばんさん》のテーブルについたが、フハンは帰ってこない。
「フハン、フハン」
 みんながよんでも、やっぱりフハンのすがたは見えない。ドノバンは湖辺《こへん》へゆき、イルコックは川の岸にのぼり、一同は手をわけてフハンをさがした。
 九時はすぎた、森は暗い、一同はたがいに黙然《もくねん》として洞《ほら》へ帰った。
「どこへいったろう」
「猛獣にでも殺されたのかもしらん」
 人々が語っていると、とつぜんフハンのほえる声がした。
「ああトンネルのなかだ」
 富士男はまっさきにトンネルにとびこんだ、年長者は手に手に武器をとって立ちあがった、年少者はいずれも毛布《もうふ》を頭からかぶって、うつぶせになった、すると富士男はふたたびトンネルから出てきた。
「この壁《かべ》のうしろに、もう一つの洞《ほら》があるにちがいない」
「そうかもしれないよ、そこにいろいろな動物が
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