いたるまで、いやしくも男の子のある家では、屋根よりも高く鯉幟《こいのぼり》を立てる、室内には男性的な人形をかざる。鐘馗《しょうき》という悪魔降伏《あくまごうふく》の神力ある英雄の像をまつる、桃太郎という冒険者《ぼうけんしゃ》の像と、金太郎という動物と同棲《どうせい》していた自然児の裸像《らぞう》もまつる、この祀《まつ》りを五月の節句《せっく》と称するんだ、五月節句は男子の祝日なのだ、だからぼくは五月節句をもって、世界少年|連盟《れんめい》が共同の力でもっていかだをつくり、相和《あいわ》し相親《あいした》しんで人生のかどでにつくことを、じつに愉快《ゆかい》に思うのだ、諸君もどうかこの意義ある五月五日を忘れずにいてくれたまえ」
「賛成《さんせい》賛成」
 一同はかっさいした。
「だが君、その鐘馗《しょうき》や桃太郎の話をもっとくわしく話してくれたまえ」
 とゴルドンがいった。
「よしッ、話そう、だが潮がそろそろやってきたようだ、まず、とも綱《づな》をとこうじゃないか」
「よしきたッ」
 バクスターはしずかにとも綱をといた。いかだは潮におされて動きはじめた。いかだのしりにひかれて、サクラ号の小さなボートは気軽《きがる》そうに頭をふりふりついてきた。
「バンザアイ!」
 一同は声をあげてさけんだ。
「ぼくらのつくったいかだだ」
 とドノバンがいった。
「そうだ、ぼくら少年はいかだをつくった、さらに少年の連盟団《れんめいだん》をつくるんだ」とゴルドンがいった。
「少年連盟バンザアイ」
 いかだは川の右岸にそうてなめらかにすすんだ。だが潮にまかせて遡行《そこう》するいかだのことであるから、速力はいたってにぶかった。その日は中途《ちゅうと》で一|泊《ぱく》し、一同は富士男の桃太郎物語などをきいて愉快《ゆかい》にねむりについた。
 翌日いかだが進行するにつれて、寒気がだんだんはげしくなった。もとより急ぐ旅でもなし、むりなことをして一同をつからすのは本意でないから、この日もまた一|泊《ぱく》した。その翌日の午後になると、はるかに笑うがごとき、湖《みずうみ》の青黛《せいたい》をみることができた。午後三時! 日本人山田の洞《ほら》ちかき川の右岸である。
 善金《ゼンキン》、伊孫《イーソン》、ドール、コスターの幼年組は早くも岸にのぼって、とんだりはねたりうたったりした、いかだの上からその光
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