いだ猛獣《もうじゅう》毒蛇《どくじゃ》のおそれがある、蕃人《ばんじん》襲来《しゅうらい》のおそれもある。
 しばしの別れだが、使命は重かつ大、どこでどんな災殃《さいおう》にあうかもしれぬのだ。ゆくものも暗然《あんぜん》たり、とどまるものも暗然たり、天には一点の雲もなく、南半球の群星はまめをまいたように、さんぜんとかがやいている。そのなかにとくに目をひくは、南半球においてのみあおぎみることのできる、南十字星である。
「どうかぶじに帰ってくれ」
「おみやげたのむぞ」
 一同は十字星の前にひざまずいて、勇士の好運をいのった。
 翌朝七時、富士男、ドノバン、イルコック、サービスの四人は、ゴルドンのすすめによって、猟犬フハンをしたがえて出発した。
 浜にそうて岩壁《がんぺき》をよじ、川をさかのぼりて森にいる。ひいらぎバーベリ等の極寒地方《ごくかんちほう》に生ずる灌木《かんぼく》は、いやがうえに密生して、荊棘《けいきょく》路《みち》をふさいでは、うさぎの足もいれまじく、腐草《ふそう》山《やま》をなしては、しかのすねも没すべく思われた。
 どうかすると少年らは、高草のためにまったくすがたを見失うことがあるので、たがいに声をかけあうことにした。七時になるともう日はしずんで、前進することができない。四人は森のなかに一|泊《ぱく》することにした。
 翌日四人はふたたび前進をつづけた、四人の目的は、この地が、島か大陸かを見さだめることと、いま一つは、冬ごもりをする洞穴《どうけつ》を、さがしあてることである。四人は大きな湖水のへんを歩きつづけた、だがこの日もまた、一頭の猛獣《もうじゅう》にもあわず、一点の人の足あとも発見しなかった。ただ二、三度、なんとも知れぬ大きな鳥が、森のなかを歩いているのを見た。
「あれはだちょうだ」
 とサービスはいった。
「もしだちょうとすればもっとも小さいだちょうだ」
 とドノバンは笑った。
「しかしだちょうだとすると、ここはアメリカかもしれんよ、アメリカはだちょうが多い」
 四人はこの夜、小さな川のほとりに野営《やえい》した。
 第三日の朝四人は、川の右岸にそうて、流れをおうてゆくと右に一帯の岩壁《がんぺき》を見た。
「やあ、サクラ湾《わん》の岩壁《がんぺき》のつづきじゃないか」
 とサービスがいった。サクラ湾《わん》とは、少年連盟のサクラ号が漂着《ひょうちゃ
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