をおりて、森のほうをさして歩きだした。
 森のかなたには小さな川がある。もしこの地に人が住んでいるなら、川口に舟の一そうや二そうは見えべきはずだが、いっこうそれらしきものも見えない。ふたりがだんだん森をわけてゆくと、樹木は太古《たいこ》のかげこまやかに、落ち葉は高くつみかさなったまま、ふたりのひざを没するばかりにくさっている。右を見ても左を見ても、人かげがない、寂々寥々《せきせきりょうりょう》、まれに飛びすぐるは、名もなき小鳥だけである。
 森をいでて川にそうてゆくと、びょうびょうたる平原である、これではまったく無人島にちがいない、むろん住むべき家があるべきはずがない。
「やっぱり船にとまることにしよう」
 ふたりは船へ帰って、一同にこのことをかたり、それから急に、修繕《しゅうぜん》にとりかかった。船はキールをくだかれ、そのうえに船体ががっくりと傾斜《けいしゃ》したものの、しかし風雨をふせぐには十分であった。まず縄梯子《なわばしご》を右のふなばたにかけたので、幼年組は先をあらそうて梯子をおり、ひさしぶりで、陸地をふむうれしさに、貝を拾ったり、海草《かいそう》を集めたりして、のどかな唄《うた》とともに、活気が急に全員の顔によみがえった。
 モコウはさっそく、サービスの手を借りて、じまんの料理をつくった。富士男、ゴルドン、ドノバンの三人は、もしも猛獣《もうじゅう》や蕃人《ばんじん》などが襲来《しゅうらい》しはせぬかと、かわるがわる甲板に、見張りをすることにきめた。
 翌日富士男は、おもむろに持久《じきゅう》の策《さく》をこうじた、まず第一に必要なのは、食料品である。船の所蔵品をしらべると、ビスケット、ハム、腸《ちょう》づめ、コーンビーフ、魚のかんづめ、野菜《やさい》等、倹約《けんやく》すれば二ヵ月分はある。だがそのあいだに、銃猟《じゅうりょう》や魚つりでもっておぎないをせねばならぬ、かれは幼年組につり道具をやって、モコウとともに魚つりにだしてやった。
 それからかれは、他の物品を点検《てんけん》した。
 大小の帆布《はんぷ》、縄類《なわるい》、鉄くさり、いかり一式、投網《とあみ》、つり糸、漁具《りょうぐ》一式、スナイドル銃八ちょう、ピストル一ダース、火薬二はこ、鉛類《えんるい》若干《じゃっかん》。
 信号用ののろし具一式、船上の大砲の火薬および弾丸《だんがん》。
 食器
前へ 次へ
全127ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング