まとみんぞく》特有《とくゆう》のまっ黒なひとみからつるぎのごとき光がほとばしりだした。
「もういっぺんいってみろ」
「ジャップは卑劣だ、有色人種は卑劣だ」
「こらッ」
富士男はドノバンの腕をぐっとつかむやいなや、右にひきよせて岩石《がんせき》がえしに大地にたたきつけた。それはじつに間《かん》髪《はつ》をいれざる一せつなの早わざである。他の少年たちはただあっけにとられて眼をぱちくりさせた。
「もういっぺんいう勇気があるか」
富士男はぐっとそののどもとをおさえていった。がこのときゴルドンが急をきいてかけつけてきた。
「どうしたんだ、まあよせよ」
かれは富士男をひいて立たしめ、それから赤鬼のごとく歯がみをして立ちあがったドノバンの腕をしっかりとつかんだ。
「どうしたんだ、きみらにはにあわんことをするじゃないか」
「ぼくは卑怯者《ひきょうもの》を卑怯だといったのに富士男は乱暴《らんぼう》をした」
とドノバンはいった。
「それはいかん、きみが富士男君を卑怯者だといったのが悪い」
「しかしかれは腕力《わんりょく》に……」
「侮辱的《ぶじょくてき》のことばは腕力よりも悪いよ」
「そんなことはない」
「きみはだまっていたまえ」
ゴルドンはこういって富士男にむかい、
「どうしてこんなことになったのだ」
「ドノバン君がぼくを卑劣だといっただけなら、ぼくはききながしておくつもりだったのだ、だがかれは遊戯に負けたくやしさのやり場がないところから、ぼくをカンニングだの卑劣だのといったうえに、ジャップは卑劣《ひれつ》だ、有色人種は卑劣だといったから、ぼくはちょっとジャップの腕前《うでまえ》はどんなものかを見せてやっただけだ」
「ほんとうか」
ゴルドンは顔色をかえてドノバンにいった。
「ほんとうとも、ぼくの本国では日本人と犬入るべからずと書いた紙札を畠《はたけ》に立ててあるんだ」
「きみは……けしからんことをいう」
とゴルドンはどなった。
「このとおりだ」と富士男は笑って「アメリカ人が犬であるか、日本人が犬であるか、いまぼくがいうまでもなく諸君がわかったろう。諸君、ぼくは高慢《こうまん》なアメリカ人、伝統《でんとう》のないアメリカ人、礼儀《れいぎ》も知らず道義も知らず物質万能《ぶっしつばんのう》のアメリカ人、とこういったなら米国人はどんな気持ちがするだろう。おたがいにその国をののし
前へ
次へ
全127ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング