たいていった。「だが阪井の方で示談《じだん》にしないと警察では困るんだ」
「監獄《かんごく》へいくんでしょうか」
「そうなるかもしれない、きみの方で阪井にかけあってなんとかしてもらうんだね」
チビ公はがっかりして警察をでた、それからその足でさしいれ屋へゆき、売りだめから七十五銭をだしていった。
「どうかよろしくお願いします」
「覚平《かくへい》さんだったね」とさしいれ屋の亭主《ていしゅ》がいった。
「はあ」
「覚平さんのさしいれはすんでるよ」
「三度分の弁当ですよ」
「ああすんでる」
「だれがしてくれたのです」
「だれだかわからないがすんでる、五十銭の弁当が三本」
「へえ、それじゃちり紙を一つ……」
「ちり紙とてぬぐいと、毛布二枚とまくらと……それもすんでる」
「それも?」とチビ公はあきれて、「どなたがやってくだすったのですか」
「それもいえない、いわずにいてくれというんだから」
「じゃさしいれするものはほかになんでしょう」
「その人がみんなやってくれるからいいだろう」
チビ公はあっけにとられて言葉がでなかった、親類とてほかにはなし、友達はあるだろうが、しかし匿名《とくめい》にして
前へ
次へ
全283ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング