かれに対して抵抗することがない。
 いやいやとかれは思い返した。これにはなにか事情がある。おれが第一になすべきことはおれの潔白を明らかにすることだ。もし文子さんを誘惑したという疑いがおれにかかってるものとすればおれはその事実をきわめて柳に謝罪させなければならぬ。そのときこそはおれは決して一歩もゆずらない。かれがいま、おれをなぐったほどおれもかれをなぐってやる。
 このことがあってから光一と千三は仇敵のごとくになった。ふたりは道で逢《あ》っても顔をそむけた。
「いまに復讐《ふくしゅう》してやるぞ」
 千三はこう肚《はら》の中でいった。文子は光一にきびしく説諭されてふたたび手塚の許《もと》へゆかなくなった。月日はすぎて、暑中休暇が近づいた。するとここにめずらしい事件が起こった。
 浦和学生弁論会!
 野球の試合ばかりが学生の興味でない。体力を養成するとともに知識を求めなければならぬ。浦和各中等学校の学生が一堂に会して弁論を研究しよう、これが目的で学生弁論会なるものが組織された。元来浦和に他山会《たざんかい》なるものがあって、師範学校と中学校の学生有志が一つの問題を提供して両方にわかれて討論
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