。
「けがしなかったか、柳《やなぎ》君」と生蕃はまっさおな顔をしていった。
「なんでもないよ」
光一は手からしたたる血汐《ちしお》をハンケチでふいていた。
「早いことをするな」
「柳にあんな勇気があったのか」
同級生はあっけに取られてささやきあった。双方ともふたたび戦う気もなくなった、犬はいつのまにか戦いをやめて逃げてしまった。
五分間の後、木俣は回気した。生蕃と光一は水を飲ませて介抱《かいほう》した。
「今日はやられた」と木俣はいった。
「明日《あす》もやられるよ」と生蕃がいった。
「いずれね」
「堂々とこいよ」
木俣は去った、三年生が去った、二年生ははじめてときの声をあげた。
「きみのおかげだよ」と生蕃はしみじみと光一にいった。「きみは強いんだね」
「いやぼくは弱いよ」
「そうじゃない、あの場合きみがライオンのまたぐらへ飛びこんでくれなかったら、ぼくはあの小刀で一つきにされるところだったんだ」と生蕃がいった。
「もしぼくがつかれて死んだらきみはどうするつもりだ」と光一は友の顔をのぞくようにしていった。
「君が死んだらか」と生蕃はいった。「おれも死ぬよ」
「そうしてぼくを殺し
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