ままでかれは光一を見るとき一種の弱気を感じたのであった、かれはわが伯父が入獄中に受けた柳家の高恩を思い、わが貧をあわれんで学資をだしてやろうとした光一の友情を思うと、かれの球を打つ気合いが抜けてどうすることもできないのであった。
 いまかれは臍下《せいか》に気をしずめ、先生のバットをさげて立ったとき、はじめて野球の意義がわかった。
 私情は私情である、恩義は恩義である、だが野球は先生および全校の名誉を荷のうて戦うのである、私情をはなれて公々然と戦ってこそそれが本当の野球精神である、このバットは先生を代表したものである、ぼくが打つのでない、先生が打つのだ。
 こう思って光一の顔を見やると光一は微笑している、その男らしい口元、上品な目の中にはこういってるかのごとく見える。
「おたがいに全力を尽くして技術を戦わそうじゃないか、負けても勝ってもいい、敵となり味方となってもよく戦ってこそおたがいの本望だ」
 千三はたまらなく嬉しくなった、かれはボックスに立った。それを見て光一は思った。
「かわいそうに青木は今日《きょう》はばかにしょげかえっている、一本ぐらいは打たしてやりたいな」
 だがかれはす
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