のづら》をわたり、べきべきたる落雲を破って、天と地との広大無辺な間隙を一ぱいにふるわす、チビ公はだまってそれを聞いていると、体内の血が躍々《やくやく》と跳《おど》るような気がする。自由豪放な青春の気はその疲《つか》れた肉体や、衰《おとろ》えた精神に金蛇銀蛇の赫耀《かくよう》たる光をあたえる。
「もっとやってくれ」とかれはいう。
「うむ、よしッ」
安場は七輪《しちりん》のような顔をぐっと屹立《きつりつ》させると同時に鼻穴をぱっと大きくする、とすぐいのししのようにあらい呼吸《いき》をぷうとふく。
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ふようの雪の精をとり、芳野《よしの》の花の華《か》をうばい、
清き心のますらおが、剣《つるぎ》と筆とをとり持ちて、
一たび起《た》たば何事か、
人生の偉業《いぎょう》成らざらん。
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うたっていくうちにかれの顔はますます黒く赤らみ、その目は輝き、わが校を愛する熱情と永遠の理想と現在力学の勇気と、すべての高邁《こうまい》な不撓《ふとう》な奮闘的な気魄《きはく》があらしのごとく突出してくる。チビ公は涙をたれた。
「きみはな、貧乏を気にしちゃいかんぞ」と
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