畜生にちがいない……」
 繃帯を首からつった片手をそのままに、片手は大地について首をさしのべた、火事場のあとをそのままの髪《かみ》の毛はところどころ焼けちぢれている、かれは眉毛一つも動かさない。
「あやまりにきたとぬかしやがる、弱いやつだ、さあ覚悟しろ」
 ライオンはほうばのげたのまま、かれの眉間《みけん》をはたとけった。阪井はぐっと頭をそらして倒れそうになったがじっと姿勢をもどして片手を大地からはなさない。
「畜生!」
「ばかやろう!」
「恩知らず」声々がわいた。
「なぐるのは手のけがれだ、つばをはきかけてやれ」
 とだれかがいった。つばの雨がかれの顔となく首となく背中となく降りそそいだ。
「ばかやろう!」
 最後に手塚がつばをはきかけた。
「手塚、おまえまでが」
 巌はじっと手塚を見詰めたので手塚は人中へかくれた。
「さあ帰ろう」とライオンがいった。「最後にのぞんで足であいつの頭をなでてやろう、さあみんな一緒《いっしょ》だぞ、一! 二! 三!」
 げたの乱箭《らんせん》が飛ぶかと思う一|刹那《せつな》。
「待ってくれ」
 はらわたをえぐるような声と共に柳は巌の身体《からだ》の上にか
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