は》ぐが如くに癒《い》え行きて、はては、床《とこ》の上に起き上られ、妾の月琴《げっきん》と兄上の八雲琴《やくもごと》に和して、健《すこ》やかに今様《いまよう》を歌い出で給う。
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春のなかばに病み臥《ふ》して、花の盛りもしら雲の、消ゆるに近き老《おい》の身を、うからやからのあつまりて、日々にみとりし甲斐《かい》ありて、病《やまい》はいつか怠りぬ、実《げ》に子宝の尊きは、医薬の効にも優《まさ》るらん、
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 滞在一週間ばかりにて、母上の病気全く癒えければ、児を見たき心の矢竹《やたけ》にはやり来て、今は思い止まるべくもあらねば、われにもあらず、能《よ》きほどの口実を設けて帰京の旨《むね》を告げ、かつ妾も思う仔細《しさい》あれば、遠からず父上母上を迎え取り、膝下《しっか》に奉仕《ほうじ》することとなすべきなど語り聞えて東京に帰り、先《ま》ず愛児の健やかなる顔を見て、始めて十数日来の憂《う》さを霽《はら》しぬ。
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  第十二 重井の変心


 一 再び約束|履行《りこう》を迫る

 妾《しょう》の留守中、重井《おもい》は数※[#二の字点
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