《ほんぷくしゅ》にも似たるかな、昨日の壮士は今日の俳優、妾また何をか言わん。聞く彼は近年細君のお蔭にて大勲位侯爵の幇間《ほうかん》となり、上流紳士と称するある一部の歓心を求むる外《ほか》にまた余念あらずとか。彼もなかなか世渡りの上手なる漢《おとこ》と見えたり。この流の軟腸者|豈《あに》独《ひと》り川上のみならんや。
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  第十一 母となる


 一 妊娠

 これより先、妾のなお郷地に滞在せし時、葉石《はいし》との関係につき他《た》より正式の申し込みあり、葉石よりも直接に旧情を温めたき旨《むね》申し来るなど、心も心ならざるより、東京なる重井《おもい》に柬《かん》してその承諾を受け、父母にも告げて再び上京の途《と》に就《つ》きしは二十二年七月下旬なり。この頃より妾の容体《ようだい》尋常《ただ》ならず、日を経るに従い胸悪く頻《しき》りに嘔吐《おうど》を催しければ、さてはと心に悟《さと》る所あり、出京後重井に打ち明けて、郷里なる両親に謀《はか》らんとせしに彼は許さず、暫《しばら》く秘して人に知らしむる勿《なか》れとの事に、妾は不快の念に堪《た》えざりしかど、かかる不自由の身と
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