まかたぎなり》、虎《とら》の巻《まき》の一|節也《せつなり》。
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夫《をつと》をして三井《みつゐ》、白木《しろき》、下村《しもむら》の売出《うりだ》し広告《くわうこく》の前に立たしむればこれある哉《かな》必要《ひつえう》の一|器械《きかい》なり。あれが欲《ほ》しいの愬《うつた》へをなすにあらざるよりは、毫《がう》もアナタの存在を認《みと》むることなし
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栄《さかえ》えよかしで祝《いは》はれて嫁《よめ》に来たのだ、改良竈《かいりやうかまど》と同じく燻《くすぶ》るへきではない、苦労《くらう》するなら一度|還《かへ》つて出直《でなほ》さう。いかさまこれは至言《しげん》と考へる。
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黒縮《くろちり》つくりで裏《うら》から出て来たのは、豈斗《あにはか》らんや車夫《くるまや》の女房、一|町《てう》許《ばかり》行《ゆ》くと亭主《ていし》が待つて居《ゐ》て、そらよと梶棒《かぢぼう》を引寄《ひきよ》すれば、衣紋《えもん》もつんと他人行儀《たにんぎようぎ》に澄《す》まし返りて急いでおくれ。女房も女房|也《なり》亭主も亭主也、男女同権也《どだんじようけんなり》、五穀豊穣也《ごこくほうじようなり》、三|銭均一也《せんきんいつなり》。これで女房が車から下《お》りて、アイと駄賃《だちん》を亭主に渡せば完璧々々《くわんぺき/\/\》
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状使のこれは極《きは》めて急なれば、車に乗りて行《ゆ》けと命《めい》ぜられたる抱車夫《かゝへしやふ》の、御用《ごよう》となれば精限《せいかぎ》り駈《か》けて駈《か》けて必《かなら》ずお間《ま》は欠《か》かざるべし、されど車に乗ると云《い》ふは、わが日頃《ひごろ》の誓《ちかひ》に反《そむ》くものなれば仰《おほ》せなれども御免下《ごめんくだ》されたし、好《この》みてするものはなき賤《いや》しき業《わざ》の、わが身も共々《とも/″\》に牛馬《ぎうば》に比《ひ》せらるゝを耻《はぢ》ともせず、おなじ思《おも》ひの人の車に乗りて命をも絞《しぼ》らん汗《あせ》の苦しきを見るに忍《しの》びねばと、足袋《たび》股引《もゝひき》の支度《したく》ながらに答へたるに人々《ひと/\》其《その》しをらしきを感じ合ひしがしをらしとは本《もと》此世《このよ》のものに非《あら》ずしをらしきが故《ゆゑ》に此男《このをとこ》の此世《このよ》の車夫《しやふ》とは落ちしなるべし。定《ぢやう》かや足は得洗《えあら》はで病《やまひ》の為《た》めに程《ほど》なく没《ぼつ》したりとぞ
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エモンを字の如《ごと》くイモンと読んで衣《きぬ》に附《つ》けた紋《もん》と心得《こゝろえ》て居《ゐ》た小説家《せうせつか》があつたさうだが、或《ある》若《わか》い御新造《ごしんぞう》が羽織《はをり》を幾枚《いくまい》こしらへても、実家《じつか》の紋《もん》を附けるのを隣の老婢《ばあや》が怪《あやし》んでたづねると、良人《やど》と儂《わたし》は歳《とし》の十|幾《いく》つも違ふのですもの、永く役に立つやうにして置かねばと何でも無しの挨拶《あいさつ》に、流石《さすが》おせつかいの老婢《ばあや》もそれはそれはで引下《ひきさが》つたさうだ此処迄《こゝまで》来れば憾《うら》みは無い。
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いつの年《とし》でしたか私《わたくし》の乗りました車夫《くるまや》が足元《あしもと》へ搦《から》み着《つ》へた紙鳶《たこ》の糸目《いとめ》を丁寧《ていねい》に直して遣《や》りましたから、お前《まい》は子持《こもち》だねと申しましたら総領《そうりよう》が七《なゝ》つで男の子が二人《ふたり》あると申しました
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悠然《いうぜん》と車上《しやじよう》に搆《かま》へ込《こ》んで四方《しはう》を睥睨《へいげい》しつゝ駆《か》けさせる時は往来《わうらい》の奴《やつ》が邪魔《じやま》でならない右へ避《よ》け左へ避《さ》け、ひよろひよろもので往来《わうらい》を叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しつた》されつゝ歩く時は車上《しやじよう》の奴が《やつ》が癇癪《かんしやく》でならない。どちらへ廻《まは》つても気に喰《く》はない。
(以上十月二十日)
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さうだ、こんな天気のいゝ時だと憶《おも》ひ起《おこ》し候《そろ》は、小生《せうせい》のいさゝか意《い》に満《み》たぬ事《こと》あれば、いつも綾瀬《あやせ》の土手《どて》に参《まゐ》りて、折《を》り敷《し》ける草の上に果《はて》は寝転《ねころ》びながら、青きは動かず白きは止《とゞ》まらぬ雲を眺《なが》めて、故《ゆゑ》もなき涙の頻《しき》りにさしぐまれたる事に候《そろ》。兄《あに》さん何して居《ゐ》るのだと舟大工《ふなだいく》の子の声を懸《か》け候《そろ》によれば其《その》時の
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