りが紺飛白《こんがすり》木綿の上を箭《や》の如《よう》に、シュッシュッと巧みに飛交《とびこ》うている。
 まだこの道は壺坂寺から遠くも来《こ》なんだ、それに壺坂寺の深い印象は私に、あのお里《さと》というローマンチックな女は、こんな機《はた》を織る女では無かったろうか、大和路の壺坂寺の附近《ちかく》で昔の夢の女――お里に私は邂逅《めぐりあ》ったような感じがした。
 不思議のローマンチックに自分は蘇生《よみがえ》って、復《また》も真昼の暖かい路《みち》を曲りまがって往《い》く……、しかし一ぺん囚《とら》われた幻影から、ドウしても私は離れることは能《で》きない、折角《せっかく》覚めるとすればまた何物かに悩まされる。つまり、晩春四月の大和路の濃い色彩に、狂乱し易い私の頭脳《あたま》が弄《なぶ》られていたのであった。
 円《まる》いなだらかな小山のような所を下《おり》ると、幾万とも数知れぬ蓮華草《れんげそう》が紅《あこ》う燃えて咲揃《さきそろ》う、これにまた目覚めながら畷《なわて》を拾うと、そこは稍《やや》広い街道に成《な》っていた。
 ふと向うの方を見ると、人数は僅少《わずか》だけれど行列が来
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