菜の花物語
児玉花外

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大和《やまと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)名所|廻《めぐ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ほこり[#「ほこり」に傍点]
−−

 大和《やまと》めぐりとは畿内《きない》では名高い名所|廻《めぐ》りなのだ。吉野《よしの》の花の盛りの頃を人は説くが、私は黄《き》な菜の花が殆《ほと》んど広い大和国中を彩色《さいしき》する様な、落花後の期を愛するのである、で私が大和めぐりを為《し》たのも丁度《ちょうど》この菜の花の頃であった。
 浄瑠璃《じょうるり》に哀情《あいじょう》のたっぷりある盲人|沢一《さわいち》お里《さと》の、夢か浮世かの壺坂寺《つぼさかでら》に詣でて、私はただひとり草鞋《わらじ》の紐のゆるんだのを気にしながら、四月の黄《き》な菜の花匂うほこり[#「ほこり」に傍点]の路《みち》をスタスタと、疲れてしかし夢みつつ歩いて行った。不思議なほど濃紫《こむらさき》に晴上《はれあが》った大和の空、晩春四月の薄紅《うすべに》の華やかな絵の如《よう》な太陽
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
児玉 花外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング