、構造組織の上に變化が表はれてくる。かくして環境、有機體、文化的全體の中に不變恒常の成分が働いてゐることを發見するといふのが、類型學者の考へ方である。
七
かやうに類型學者の求むる所は、不斷の變化の中にありて、固定不變の規準を發見することで、環境、文化的全體の變化に左右されず常に一定の方向を取る所の樣式でなければ、眞の類型とはいへないであらう。類型學者の研究としてはこの種の類型の發見で滿足すべきであるかも知れないが、これが實際教育の上に適用される場合には、それでは不十分になつてくる。
今一例を擧げて見よう。茲に類型學者によりて構造的に内向型であると判斷された一兒童があるとする。彼は内氣で正直で温和な者であり、又正直のテストをすると高い點を取つたとする。しかし彼が家計の變化のために正に餓死に瀕せんとするに至るや、彼は不正直な事を敢てするかも知れない。變數の正直は環境の中の飢餓の變數と密接な關係に立つ。しかし彼は餓死するか否かに拘らず、依然として構造上内向型であるといふ場合を考へて見よ。類型研究者からいへば正しい判斷を下したといへるが、實際教育者からいへばこの種の靜的な類型の發見よりも、環境によりて彼の行動が如何なる變化を蒙るか、又その變化の方向や範圍は如何等の動的研究が大切になつてくる。即ち兒童の人格の構造は如何なる範圍に於て變化しないか、同一構造のものでも、環境の變化によりて行動に如何なる變化を引起すか、場の力が兒童の行動に如何に働くか等を知る必要がある。この種の環境研究の新傾向については拙著「環境の心理」に詳述して居るから、茲に之を省くことにするが、それ等の環境研究者の結果によると、人間の欲求が環境の状勢によりて、異なる方向を取るばかりでなく、又その衝動の力にも變化を來たすことが明かにされた。故に吾人は一方に恒常的方向を取る類型を把握すると同時に、他方に環境によりてその方向に歪みを生ずる場合を知らなければならぬ。(十、二、十一)
底本:「文献選集 教育と保護の心理学 昭和戦前戦中期 第1巻」クレス出版
1997(平成9)年6月25日発行
底本の親本:「学校教育」
1935(昭和10)年
初出:「学校教育」
1935(昭和10)年
入力:岩澤秀紀
校正:小林繁雄
2008年3月4日作成
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