石像の如き態度に、彼を取り囲んだ被害民は、悲憤の余り、悪言毒語、その無情冷酷を罵つた。
その夜汽車が上野へ着くと、榎本は停車場から馬車を直ちに大隈邸へ向けた。
二十四日、議会の最終日で、大隈外相の演説があり、極めて多忙である中を、田中は無理やり演壇に立つて、鉱業停止を叫んだ。彼はその長演説の最後に於て言を更《あらた》めて議会へ訴へた。
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『諸君にお願ひ申して置きます。成るべく鉱毒地を御覧になつて戴きたい。被害地は東京から二十里そこらしか無い。政府から誰が往つて見た。誰が往つて見た。見ないで居てからに、卓子の上で勝手な人間の報告ぐらゐ聴いて置いてどうするのでございませうか。――
未だ議論は結了しませぬけれども、これで止めます。如何にも憤慨に堪へませぬ、十万以上の人間が毒殺される――(議席に笑ふものあり)諸君の中にはお笑ひなさる御方もございますが、どうも私の力ではこの真状を写し出することが出来ませぬ。御笑になる御方があるから、尚《な》ほ一歩進んで言はなければならぬ事が出来て来ました。農商務大臣の向島の別荘で菜が一本出来なくなつたら、諸君どうする。忽ち自分の頭に感ずるの
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