抜と云ふ方から見ようが、何を以てこの国を背負うて立てるか。今日国家の運命は、そんな楽々とした、気楽な次第ではありませぬぞ。たゞ馬鹿でもいゝから真面目になつてやつたら、この国を保つ事が出来るか知れぬが、馬鹿のくせに生意気をこいて、この国を如何にするか。
誰の国でも無い。兎に角今日の役人となり、今日の国会議員となつた者の責任は重い。既往の事は姑《しばら》く措《お》いて、これよりは何卒国家の為に誠実真面目になつてこの国の倒れる事を一日も晩《おそ》からしめんことを御願申すのでございます。
政府におきましては、これだけ亡びて居るものを、亡びないと思つて居るのであるか。如何にも田中正造の言ふ如く、亡びたと思うて居るのであるか』
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二十一日、政府は左の答弁書を送つて来た。
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質問の旨趣、其要領を得ず、依て答弁せず。
右及答弁候也
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[#地から2字上げ]内閣総理大臣侯爵 山県有朋
議会に投げかけた最後の一声
兇徒嘯集の疑獄は、三十三年の十二月、前橋地方裁判所で公判が開かれ、「官命抗拒」「治安警察法違犯」と云ふ判決であつたが、検事の控訴で、事件は東京控訴院へ移された。
政治界には、伊藤博文が自由党を基礎に官僚を率《ひき》ゐて、三十三年九月、政友会を組織したので、山県は直に伊藤を推薦して、辞表を提出し、十月伊藤を首相とする政友会内閣が出来た。
第十五議会、田中正造に取つて最後の議会が開かれた。この議会に於て、彼は二度演壇に立つた。三月二十四日、最後の演説の最終の語を聴け。
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『たゞ諸君に御訴へ申さなければならないのは、御互に人の命は明日も期し難い事で御座りまする。来る十六議会は姑く措いて、明日が計り難いのでございますから、思ふ事の要点は、どのやうにも、たとひ一言たりとも諸君に御訴へ申して置きたいのでござります。と言ふのは、当年もこの増税騒ぎ、昨年も増税騒ぎ、これでまた矢張り明年も増税、明後年もと云ふ筆法に行くのである。
諸君。このやり方で、憲法は打《ぶ》つ壊《こは》しツ放《ぱな》しにして置いて、増税、増税、増税――何処まで行つて停止するのであるか。畢竟この日本の……………………御仕合せな話である。若しこの国民が八釜《やかま》しい人民であるならば、……………は無いのである。――この話をして置かなければならない。
今日の如く、少数の人間が、僅かの人間が格外なる幸福を占有して、乱暴狼藉に人の財産を打倒して、己が非常な利慾を私すると云ふことを、……………に結托して、その勢を助けてやる。この少数、穏かならぬ少数の為に国家の経済を蹂躙されると云ふことでは、この国家全体の元気と云ふものを失ひ、日本国と云ふ国の肩書を軽んじて来る。この少数の佞奸《ねいかん》邪智の奴ばかりに横領されて、一般人民を圧倒して置く時には、日本の所有権と云ふものを、これを共に重んずる思想が減じて来る。この日本の住民が、政府に……だから幸だと言つて、殆ど人民を無き者の如くに見て、幾ら悪い事をしても知れまい。どんな事しても人民の方には判るまい――斯様《こんな》浅墓《あさはか》な考を以て、当年も増税、明年も増税、諸君は止まる所を何となさるのでござりまするか』
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この時、彼は身心疲れ果てて、殆ど壇上に倒れるばかり、ぢツと双眼を閉ぢ、幾度も頭を振つて、また口を開いた。
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『憲法がある、立派に憲法が行はれて居る。租税を出せ――かう言ふ。私は絶対的反対でございます。憲法は書いたものばかりの理窟で無い。徳義だ。徳義を守るものが憲法を所有する。背徳の人は憲法を所有する権利が無い。憲法は国民四千万同胞の共有すべきもので、悪人には所有権が無い』
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四十歳始めて立憲政治の建立に志を立ててより二十年。今やこの一声を議場の四壁に残して、彼は徐ろに議院の門を出た。
衆議院議員を辞す
三十四年九月、東京控訴院に於て兇徒嘯集被告事件の第二審公判が開かれた。
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重罪の被告 二十三名
軽罪の者 二十八名
弁護士 五十余名
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鉱毒問題は、帝国議会から裁判所へ移つた。
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一、渡良瀬川沿岸被害地中、被告居村の臨検、及び其収穫高の鑑定、土壌の分析、土質と作物との関係の鑑定。
一、本件犯罪地、即ち雲龍寺より館林、川俣地方の臨検。
一、鑑定人には農科大学の三教授選定。
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これが為めに、判事、検事、鑑定人、弁護士、新聞記者等五十余人の一行は、十月六日鉱毒地出張、十三日帰京した。
田中正造はこ
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