なる者だが、社会全体から見ればその一部分である。されば仮令政治の弊害全部を破りました所で、社会の一部が良くならうが、全部は良くなりませぬ。
フランスで申しますと、革命前は租税の割合が実に怪しからん有様で、官人貴族または僧侶が多くの不動産を所有し、自分の手に入れて居りながら租税も払はず、租税を払ふは僅かな土地を有つて居る貧民でありました。その他これに類する政治上の弊害は、革命の為に先づ破れた。然しながら黄金世界は来らずして、却て度々色々な困難を受けました。」
「日本もこれまでとは違つて、未曾有の政体が今年から成立ちますので、この政体に多くの望を嘱した人々は、立憲政体さへ成立てば非常に良い世界が来ると思ふでありませうが、私は然うは思ひません。然らば後来起るべき弊害は何かと云ふに貧富の間に一大戦争が起る。」
「欧米各国今日の問題は、貧富争闘の処分は如何になすべきか。何時にならばこの戦争が終るべきかである。欧羅巴が今日この問題に出会ふは、固より思ひかけざるものと思ひます。政治上の弊害が破れたならば、社会はずツと良くなるであらうと思つて居りました。これが一つ望み。今一つのは器械の発明である。器
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