路傍の電柱、道標などに、「足尾鑛毒被害民上京」「慘死千何百名」など白墨もて書きたるは、一昨日の紀念ならん、一同は去十三日の午後一時頃を以て解散しつ、捕縛されたる廿四名は今朝までに皆な前橋地方裁判所へ押送されぬ、
余は道すがら被害地の概况を看つ、渡瀬《わたらせ》の板橋を越へ、左手《ゆんで》なる田中の一林中に彼の雲龍寺の堂棟を眺め、仰で遙かに足尾の高根を望み、湧き出づる萬感の間に一道の理會を試みつゝ急ぎぬ、思ひの外に道ひま取りければ佐野に今夜の宿は求めぬ、是れ一つには「鉢の木」の徃事をしのばんが爲めに、
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余は所謂被害地區域に入りてより大に得る所あるが如く感ず、若し夫れ足尾の峯を攀ぢ渡瀬《わたらせ》の流を下るの後は髣髴として「足尾鑛毒問題」なる一個の面影を描くに庶幾《ちか》からんか、(二月十五日夜佐野町にて木下生)
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[#地から1字上げ](明治三十三年二月十七日 毎日新聞第八八二一號)
底本:「木下尚江著作集第1巻」明治文献
1972(昭和47)年2月10日第1刷発行
初出:「毎日新聞 第八八二一號」
1900(明治33)年2月17日
入力:林 幸雄
校正:小林繁雄
2006年7月19日作成
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