は互に競《きそ》うて滅亡に急ぎつゝあるです、私共は彼等を呼び留めますまい、寧《むし》ろ退《しりぞい》て新しき王国の礎《いしずゑ》を据ゑませう」
彼は又た梅子を顧みつ「貴嬢《あなた》は特に青年の為に御配慮です、乍併《しかしながら》今日《こんにち》の青年は、牧者の杖《つゑ》を求むる羊と云ふよりは、母※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《おやどり》の翼を頼む雛《ひな》であります、――枕すべき所もなき迫害の荒野に立ちて基督《キリスト》の得給ひし慰《なぐさめ》は、単《ひと》り天父の恩愛のみでしたか、否《い》な、彼に扈従《こじゆう》せる婦人の聖《きよ》き同情は、彼が必ず無量の奨励を得給ひたる地上の恵与であつたと思ふ、梅子さん、秋の霜《しも》、枯野の風の如き劇烈なる男児の荒涼《くわうりやう》が、春霞《はるがすみ》の如き婦人の聖愛に包まれて始めて和楽を得、勇気を得、進路を過《あやま》たざることを得る秘密をば、貴嬢は必ず御了解なさるでせう」
恍然《くわうぜん》と仰ぎたる梅子の面《かほ》は日に輝く紅葉に匂へり、
「御嬢様! どんなに御探《おさ》がし申したか知れませんよ」と忽如《こつぢよ》として現
前へ
次へ
全296ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング