剛造は今しも晩餐《ばんさん》を終りしならん、大きなる熊の毛皮にドツかと胡座《あぐら》かきて、仰げる広き額には微醺《びくん》の色を帯びて、カンカンと輝ける洋燈《ランプ》の光に照れり、
茶をすゝむる妻の小皺《こじわ》著《いちじるし》き顔をテカ/\と磨きて、忌《いまは》しき迄|艶装《わかづくり》せる姿をジロリ/\とながめつゝ「ぢやア、お加女《かめ》、つまり何《どう》するツて云ふんだ、梅の望《のぞみ》は」
妻のお加女はチヨイと抜《ぬ》き襟《えり》して「どうするにも、かうするにも、我夫《あなた》、てんで訳が解つたもンぢやありませんやネ、女がなまなか学問なんかすると彼様《あんな》になるものかと愛想が尽きますよ、何卒《どうぞ》芳子にはモウ学問など真平《まつぴら》御免ですよ、チヨツ、親を馬鹿にして」
「何だか少しも解らないなア」
「其りやお解になりますまいよ、どうせ何にも知らない継母《まゝはゝ》の言ふことなどを、お聴き遊ばす御嬢様ぢや無いんですから――我夫《あなた》から直《ぢか》にお指図なさるが可《よ》う御座んすよ、其の為めの男親でさアね」
剛造の太き眉根《まゆね》ビクリ動きしが、温茶《ぬるちや
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