かが》致したと申すのでげすナ」
「御尤《ごもつとも》です、新聞には大抵、小米と申すのが、未《ま》だ賤業《せんげふ》に陥《おちい》らぬ以前、何か兼吉と醜行でもあつた様にありますが、其れは多分小米と申すの実母《はゝ》から出た誤聞であります、兼吉と彼《か》の婦人とは幼少時代からの許嫁《いひなづけ》であつたのです、然《しか》るに成人するに及《およん》で、婦人の母と云ふが、職工|風情《ふぜい》の妻にしたのでは自分等の安楽が出来ないと云ふので、無残にも芸妓《げいしや》にして仕舞《しま》つたので――其頃兼吉は呉港《くれ》に働いて居たのですが、帰京《かへ》つて見ると其の始末です、私《わたし》も数々《しげ/\》兼吉の相談に与《あづ》かつたのです、一旦《いつたん》婦人の節操を汚がしたるものを娶《めと》るのは、即ち男子の道義をも自ら破壊することになるか如何《どうか》と云ふのです、私は彼に質問したのです、――君は彼女《かのぢよ》の節操破壊を以て自己の心より出でたるものと思つてるか如何《どうか》――所が彼の言ひまするには、私は決して左様《さう》は思ひません、全く母親の利慾に圧制されたので、柔順なる彼女は之に抵抗することが出来なかつたのであることを疑はないと云ふのです」
「ほんたうに小米さんの様な温順《やさし》い人はありませんでしたよ」と、花吉は、吐息《といき》を漏《も》らしぬ、
「左様《さう》であつたとのことですナ」と篠田は首肯《うなづ》き「然《しか》らば君、少しも憚《はばか》る所は無い、速《すみやか》に彼女《かれ》を濁流より救ひ出だして、其愛情を全うするが可《よ》いと、忠告致しました、所が彼は躊躇《ちうちよ》して、けれど彼女《かれ》は千円近くの借金を背負《しよ》つてるのでと悶《もだ》へますから、何を言ふのだ、霊魂を束縛する繩が何処に在ると励ましたのです」
「へヽヽヽ先生、御得意の自由廃業でげすな」と、丸井はツルリ禿頭《あたま》を撫でぬ、
「左様です、不道徳なる負債は、弁償の義務がありません、否《い》な、弁償を迫る権利がありません、――それで婦人も非常に喜んだサウです、所が何とか云ふ貴族院議員が――」
と篠田の暫《し》ばし其名を思ひ出し得ざるに、花吉が「あの、金山《かなやま》伯爵でせう、――小米さんも嫌《いや》がつて居たんですよ、頭の禿《は》げた七十近い老爺《おぢい》さんでしてネ」
「花ち
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