今度は少し裕然《ゆつくり》泊つて行けるだらうの――」
篠田は頭掻きつゝ、口ごもりぬ「――先日も手紙で申上げたやうな次第《わけ》で、当時差し懸《かゝ》つた用事がありますので、殆《ほとん》ど足を抜くことが出来ないのですが――何だか無闇《むやみ》に貴女が恋しくなつたもんですから、今日《こんにち》不意に出掛けて参つたやうな始末でしてネ――」
伯母は怪訝《けげん》な目して良久《しばし》篠田を見つめしが「――又た明日ゆつくり話しませう、疲れたらうに早くお寝《やす》み、例《いつも》の所にお前の床がある、――気候が寒いで、風邪《かぜ》でも引かれると大変だ」
「貴女《あなた》こそ早くお寝みなさい」と篠田は笑ひぬ、
「何の、私《わし》は寝たよりも醒《さ》めてる方が楽《たのしみ》だ――此の綿を紡《つむい》で仕舞《しま》はんぢや寝ないのが、私の規定《きめ》だ、是れもお前の袷《あはせ》を織る積《つもり》なので――さア、早くお寝《やす》み」
「左様《さう》ですか」と篠田は暗涙を呑《のん》で身を起しつ「誠に、恐縮に御座ります」と襖《ふすま》開きて、慣れたる奥の一室《ひとま》に入《い》れり、
伯母は膝に手を組んで頭《かしら》を垂れぬ「――何か只《たゞ》ならぬ心配があると見える――此の私を急に恋しくなつたと云ふのは――彼《あ》の剛情な男が――」
二十四の五
「長二や、大層|早起《はやい》の、何時起きたのか、ちつとも知らなかつたよ」と言ひつゝ伯母は内より障子開く、
縁端《えんはた》には篠田が悠然《いうぜん》と腰打ち掛けて、朝日の光《ひかり》輝く峯の白雲|眺《なが》めつゝあり、「そりや、伯母さん、私の方が早く寝ましたからネ――が、伯母さん、どうも実に閑静ですねエ、全く別天地です、此の節々が延々《のび/\》しますよ」
「だから、江戸の様なせゝこましい所で、無駄な苦労せずに、早く先祖代々の故郷へお帰りと云ふのだ――頼朝様《よりともさま》よりも前から住んで居るので、何殿《どなた》に頭を下げにやならぬと云ふ様な心配もなしさ」
「然《し》かし、伯母さん」と篠田は笑みつ「猿や狐の友達も可《い》いが、人間は矢張り人間の相手が無ければ、寂《さび》しくて堪《たま》りませんよ、私は又た伯母さんが、能《よ》く斯《かう》して孤独《ひとり》で居なさると不思議に思ふですよ、何《どう》です、一つ江戸住《えどずま
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