物が、聞けば又《ま》た戦争とか始まるさうで、私《わし》の村からも三四人急に召し上げられましたが、兵隊に取られるものに限つて、貧乏人で御座りますよ、成程|其筈《そのはず》で、年中働いて居るので身体《からだ》が丈夫、丈夫だから兵隊に取られる、――此頃も郡役所の小役人が帽子《シヤツポ》など被《かぶ》つて来まして、国の為めに死ぬんだで、有難いことだなんて言ひましたが、斯様《こんな》馬鹿な話がありますか、――近い例証《ためし》が十年前の支那の戦争で、村から取られた兵隊が一人死にましたが、ヤア村の誉《ほまれ》になるなんて、鎮守の杜《もり》に大きな石碑建てて、役人など多勢来て、大金使つて、大騒ぎして、お祭を行《や》りましたが、一人息子に死なれた年老《としと》つた両親《ふたおや》は、稼人《かせぎて》が無くなつたので、地主から、田地を取り上げられる、税を納めねいので、役場からは有りもせぬ家財を売り払はれる、抵当に入れた馬小屋見たよな家は、金主から逐《お》つ立てられる、到頭《たうとう》村で建てて呉れた自分の息子の石碑の横で、夫婦が首を縊《くゝ》つて終ひましたよ、爺《ぢい》と媼《ばゝあ》の情死《しんぢゆう》だなんて、皆《みん》な笑ひましたが、其時も私《わし》、長左衛門様の御話して、斯《かう》なることを見透《みとほ》して御座つたと言うて聴かせましたが、若い者等は、ヘイ其様《そんな》人があつたのかなと驚いて居ましたよ、最早《もう》村の奴せえ御恩を忘れて居ります様なわけで――」
老人は鼻汁《はな》すゝり上げつ「どうせ私《わし》などは明日にも死ぬ身だから、関《かま》やせぬやうな物で御座りますが、子供等が可哀さうでなりませぬ、何卒、旦那――長二様、一つ長左衛門様の魂塊《たましひ》を御継《おつ》ぎなされて、此の百姓共を救つて下さりまし――」
石にや乗り上げけん、馬車は顛覆《てんぷく》せんばかりに激動せり、
「畜生、何をフザけやがるツ」御者《ぎよしや》は続けさまに鞭《むち》を鳴らして打てり、
「オヽ、可哀さうだ、余り酷《ひど》くしなさるナ」と、老人は御者をなだめつ、
馬車はやがて吉田に着きぬ、
「では、御老人、お別れ致します」篠田は老人の手をシカと握りて斯く言へり、
権作爺《ごんさくおやぢ》は幾度《いくたび》も何か言はんと欲して遂《つひ》に言ふこと能《あた》はざりき、粟野の方《かた》へ雪踏み分
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