拍手《はくしゆ》の間に響けり、満場既に酔《ゑ》ひぬ、
 反対者の冷笑|熱罵《ねつば》もコヽを先途《せんど》と沸《わ》き上れり、「露探」「露探」「山木の婿の成りぞこね奴《め》」「花吉さんへ宜《よろ》しく願ひますよ」
 彼は徐《おもむ》ろに口を開きぬ「諸君――」
 此時、聴衆の頭上を飛ぶが如くに駈《か》け来れる一警部が、演壇に飛び上がつて、何事か警視に耳語《じご》せり、
 瞥視は倉皇《さうくわう》、椅子を蹴つて起てり「解散――弁士――中止」
 満場総立となれり、警官力を極《きは》めて制すれ共聴かばこそ、「革命」「革命」「革命」
 良久《しばし》見てありし篠田は、右手を伸ばしぬ、
「静に」
 群衆は舌を留めて篠田を見たり、
「火に油|注《そゝ》ぐ者の火傷《くわしやう》は、我等の微力に救ふことは出来ませぬ」
 彼は一揖《いちいふ》して去れり、
 満場再び湧き返へれり、玻璃窓《ガラスまど》の砕くる響|凄《すさ》まし、

     二十四の一

 中仙道《なかせんだう》熊谷《くまがや》を、午後の六時廿分に発したる上武鉄道の終列車は、七時廿六分に波久礼《はくれ》駅に着きぬ、
 秩父《ちゝぶ》の雪の山颪《やまおろし》、身を切るばかりにして、戸々《こゝ》に燃ゆる夕食《ゆふげ》の火影《ほかげ》のみぞ、慕はるゝ、
「馬車が出ます/\」と、炉火《ろくわ》を擁《よう》して踞《うづく》まりたる馬丁《べつたう》の濁声《だみごゑ》、闇の裡《うち》より響く「吉田行も、大宮行も、今ま直《すぐ》と出ますよ」
 都の巷《ちまた》には影を没せる円太郎馬車の、寂然《せきぜん》と大道に傾きて、痩《や》せたる馬の寒天《さむぞら》に俯《ふ》して藁《わら》を食《は》めり、
 二台の馬車に、客はマバラに乗り込みぬ、去れど御者も馬丁《ばてい》も悠々《いう/\》寛々《くわん/\》と、炉辺に饒舌《ぜうぜつ》を皷《こ》しつゝあり、
「オヽイ、馬丁さん、早くしてお呉れよ、躯《からだ》がちぎれて飛んで仕舞《しま》ひさうだ――戯※[#「墟」の「土」に代えて「言」、第4水準2−88−74]《じやうだん》ぢやねえよ」と、車の裡《うち》なる老爺《おやぢ》は鼻汁《はな》すゝりつゝ呼ぶ、
「まア、飛ばねえやうに、繩ででも縛《くゝ》つて置いてお呉れなせえ、此方《こつち》の躯《からだ》もちぎれねえやうに、今ま一杯|行《や》つてくからネ」、御者は又
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