》に笑みつ「はア、閣下、山木には無骨《ぶこつ》な軍人などは駄目ださうです、既に三国一の恋婿《こひむこ》が内定《きま》つて居るんださうですから」
「フウ、外《ほか》に在《あ》るのか、其りや一ときは面白い、山木、誰ぢや、君の恋婿と云ふのは」
剛造は顔中撫で廻はして「閣下、其れは松島さんのお戯れで、決して外に約束など有る義では御座りませぬが――」
殆《ほとん》ど困却の山木を、松島は愉快げに尻目に掛けつ「然らば閣下、山木の恋婿《こひむこ》をば自分から御披露に及びませう――日本社会党の領袖、無政府主義の張本《ちやうほん》、同胞新聞主筆篠田長二君と仰せられるのださうでツ」
「ヤ、松島さん」と色を失つて周章する剛造を、侯爵は稍々《やゝ》垂れたる目尻にキツと角立てて一睨《いちげい》せり、
「閣下、其れを御信用下だされましては、遺憾《ゐかん》千万に御座りまする、全く松島様の誤解で御座りますから――」
「松島、事実相違ないか、何《ど》うぢや」
大佐は冷然たり「閣下、私《わたくし》も帝国軍人で御座りまする」
「フム」と軽く首肯《うなづ》きて侯爵は又た山木の面《おもて》を睨《にら》めり、
「閣下、其れは余りに残酷なことで御座りまする、私《わたくし》が社会党などに娘を遣《や》ることが出来まするものか出来ませぬものか、少し御賢察を願はしう存じまする、――近い御話が、閣下、今回《このたび》炭山の坑夫同盟でも明かでは御座りませぬか、九州の方へは菱川だとか何だとか云ふ二三人の書生を遣《や》つて奇激な演説などさせて、無智|蒙昧《もうまい》な坑夫等を煽動《せんどう》させ、自分は東京に居て総《すべ》ての作戦計画をして居るので御座りまする、皆《みん》な篠田長二の方寸から出でまするので――非戦論など唱《とな》へて見ても誰も相手に致しませぬ所から、今度は石炭と云ふ唯一の糧道を絶つ外ないと目星を着けて、到底《たうてい》相談のならない法外な給料増加の請求を坑夫等に教唆《けふさ》し、其の請求の貫徹を図《はか》ると云ふ口実の下《もと》に、同盟罷工を行《や》らせると云ふのが、篠田の最初からの目的なので御座りまする、悪党とも国賊とも、名の付けられた次第では御座りませぬ、――閣下、何《どう》して私《わたし》が其様《そん》なものへ娘を遣《や》ることが出来ませう――其れで坑夫共の生活を支《さゝ》へる為めに亜米利加《アメリカ
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