《まぶた》拭《ぬぐ》ひつ「何ネ、――又た貴嬢《あなた》の亡母《おつか》さんのこと思ひ出したのですよ、――斯様《こんな》立派な貴嬢の御容子《ごようす》を一目|亡奥様《せんのおくさん》にお見せ申したい様な気がしましてネ、――」
答へんすべもなくて、只《た》だ鍵盤に俯《うつぶ》ける梅子の横顔を、老女は熟《つ》く熟《づ》くとながめ「何《どう》して、梅子さん、貴嬢《あなた》は斯《か》うまで奥様に似て居らつしやるでせう、さうして居らつしやる御容子ツたら、亡母《おつか》さん其儘《そのまゝ》で在《い》らつしやるんですもの――此の洋琴《オルガン》はゼームス様《さん》が亡母さんの為めに寄附なされたのですから、貴嬢が之をお弾きなされば、奥様《おくさん》の霊《みたま》が何程《どんな》に喜んで聴いてらつしやるかと思ひましてネ――オホヽ梅子さん、又た年老《としより》の愚痴話、御免遊ばせ――」
「アラ、老女《おば》さん、そんなこと――此の教会で亡母《はゝ》のこと知つてて下ださるのは、今は最早《もう》老女さん御一人でせう、家《うち》でもネ、乳母《ばあや》が亡母のこと言ひ出しては泣きます時にネ、きツと老女さんのこと申すのですよ、私《わたし》、老女さんに抱いて戴いて、亡母《はゝ》と永訣《おしまひ》の挨拶《あいさつ》をしたのですとネ、――私、老女さん、此の洋琴に向ひますとネ、何《ど》うやら亡母が背後《うしろ》から手を取つて、弾いてでも呉れる様な気が致しましてネ、不図《ふと》、振り向いて見たりなどすることがあるんですよ、――私ネ、老女さん、此の教会を棄てることの出来ないのは、こればかりなんです――」
「まア、貴嬢《あなた》、飛んでも無いこと仰《おつ》しやいます、此上貴嬢が退会でもなさろものなら、教会は全《まる》で闇《やみ》ですよ、篠田さんの御退会で――」
思はず言ひ掛けて、老女は俄《にはか》に口に手を当てぬ、「ほんとに老女《おば》さん、篠田さんのことでは私、皆様にお顔向けがならないのです、――老女さん、近く篠田さんに御面会《おあひ》なさいまして――」
「ついネ、此の廿五日にも参上《あが》つたのですよ、御近所の貧乏人の子女《こども》を御招《および》なすつて、クリスマスの御祝をなさいましてネ、――其れに余りお広くもない御家《おうち》に築地の女殺で八釜《やかまし》かつた男の母《おや》だの、自由廃業した芸妓《
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