たふ  平安《やすき》きたり
よゝのひじりらの   まちし国に
エスを大君と     たゝへあがめ
あまねく世のたみ   たかくうたはん」
[#ここで字下げ終わり]
 篠田は起《た》つて聖書を読み、祈祷《きたう》を捧げ、扨《さ》て今宵《こよひ》の珍客なる少年少女に向《むかつ》て勧話の口を開けり、
「貴所等《あなたがた》と私《わたし》とは長く御近所に住つて居りますが、今まで仲よく一所に遊ぶ様な機会《をり》がありませんでした、今晩は能《よ》くこそ来て下さいました、――今晩|貴所方《あなたがた》をお招《よび》申したのは、耶蘇基督《イエスクリスト》と云ふお方の御誕生日を、御一所にお祝ひ致《い》たさうと思つたからです、貴所方《あなたがた》も皆《みん》な生れなすつた日がある、其日になると、阿父《おとつ》さんや、阿母《おつか》さんが、今日は誰の誕生日だからと、何かお祝をして下ださるでせう」
「アイ、二十日《はつか》が俺の誕生日だツて、阿母《おつかあ》が今川焼三銭買つて、父《ちやん》の仏様へ上げて、あとは俺が皆な食べたよ」と、突如《だしぬけ》に返事したるは、覚束《おぼつか》なき賃仕事に細き烟《けむり》立て兼ぬる新後家《しんごけ》の伜《せがれ》なり、
 クス/\笑ふものある中に篠田は首肯《うなづき》つ「丁度《ちやうど》其れと同じく、基督《キリスト》の御誕生日には私共《わたしども》一同、日本人ばかりでは無い、世界中の人が神様へ御礼を申し上げるのです、基督のことは今ま歌を歌ひなされた、大和先生から段々御聞きなさい、私《わたし》が差当り一つ御話して置くのは、――貴所方《あなたがた》が忘れない様に聞いて置《おい》て頂きたいのは、――二千年|昔時《むかし》にお生れになつた外国人の基督が、何時までも/\世界中の人に、誕生日を祝つて貰ふと云ふ不思議な理由《わけ》です、基督と云ふお方は極々《ごく/\》貧乏な家《うち》へお生れになつたのです、此の壁に懸《か》けてある画にある様に、旅の宿屋の馬小屋で馬の秣桶《かひばをけ》を、臥床《ねどこ》になされたのです、阿父《おとうさん》は貧しき大工で、基督も矢張り大工をなされたのです――能《よ》く御聴きなさい、貧乏と云ふことは左《さ》まで耻かしいことではありません、私も貴所方《あなたがた》も皆《みん》な汚穢《きたない》着物でせう、私も貴所方も皆な貧乏人です、けれど、
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