れに斯《か》うやつて此方《こちら》の先生様が御親切にして下ださるもんですから、せめては兼吉が生《うみ》の父にも増して頼《たより》にして居た先生様の、御身のまはりなりと御世話致したら、牢屋に居る伜《せがれ》も定めて喜ぶことと思ひましてネ――」
「ほんとに老女《おば》さん、何《どう》したら篠田様のやうな御親切な御心が持《もて》ませうかネ――私《わたし》ネ老女さん、男なんてものは、皆《みん》な我儘《わがまゝ》で、道楽で、虚《うそ》つきで、意気地《いくぢ》なしのものと思つてたんですよ、――先生様《しのださま》で私、驚きましたの、一寸お見受け申すと、何だか大変に怖《こは》さうで、不愛想の様で居らつしやいますが、心底に温柔《やさし》い可愛らしい所がおありなすつて、彼《あ》れが威あつて猛《たけ》からずとでも云ふんでせうかねエ――籍の方の詰も落着したから、明日の何とか、さウ/\、クリスマスとか云ふのが済んだなら、大久保の慈愛館とやらへ行くやうにと、今朝もお話下ださいましたけれどもネ、老女さん、私、何《ど》うやら此家《こちら》が自分の生まれた所の様に思はれて、何時までも老女さんと一所に居たい様な気がして、堪《た》まりませんの」
「花ちやん、其様《そんな》に柔《やさ》しく言うてお呉れだと、何だかお前さんが米ちやんの様に思はれてネ」
「老女《おば》さん、私《わたし》も左様《さう》ですよ、始めて此方《こちら》へ上つて――疲れたらうから早くお寝《やすみ》ツて仰《おつしや》つて下だすツて、老女さんの傍へ寝せて戴いた時――私、ほんとに母の懐へ抱かれでもした様な気がしましてネ、五体《からだ》が延《のん》びりして、始めてアヽ世界は広いものだと、心の底から思ひましたの、――私、老女さん、二十年前に別れた母が未だ存《ながら》へて居て、丁度《ちやうど》廻り合つたのだと思つて孝行しますから――私の様なアバずれ者でも何卒《どうぞ》、老女さん、行衛《ゆくゑ》知れずの娘が帰つて来たと思つて下ださいナ」
老婆は涙にムセびつゝ、首肯《うなづ》くのみ、
「オヽ、嬉しい」と、お花は涙一杯の美しき眼に老婆を仰ぎつ「ぢや、今から阿母《おつか》さんと言つても可《よ》う御座んすか――何だか全《まる》で夢の様ですのねネ――昨日までの邪慳《じやけん》な心が、何処へか去《い》つて仕舞つたの――私《わたし》ヤ、すつかり生れ変はりました
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