「あの小君は何にあたる方ですか、恨めしい方、今になってもお隠しなさるのね」
 と尼君に責められて、少し外のほうを向いて見ると、来た小君は自殺の決心をした夕べにも恋しく思われた弟であった。同じ家にいたころはまだわんぱくで、両親の愛におごっていて、憎らしいところもあったが、母が非常に愛していて、宇治へもときどきつれて来たので、そのうち少し大きくもなっていて双方で姉弟《きょうだい》の愛を感じ合うようになっていた子であると思い出してさえ夢のようにばかり浮舟には思われた。何よりも母がどうしているかと聞きたく思われるのであった。他の人々のことは近ごろになってだれからともなく噂《うわさ》が耳にはいるのであったが、母の消息はほのかにすらも知ることができなかったと思うと、弟を見たことでいっそう悲しくなり、ほろほろ涙をこぼして姫君は泣いた。小君は美しくて少し似たところもあるように他人の目には思われるのであったから、
「御|姉弟《きょうだい》なのでしょう。お話ししたく思っていらっしゃることもあるでしょうから、座敷の中へお通ししましょう」
 と尼君が言う。それには及ばぬ、もう自分は死んだものとだれも思ってしま
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