ては、静かにすべき隙見《すきみ》に激情のままの身じろぎの音もたててしまうかもしれぬと気づいて立ち退《の》いた。こんな美女を失った人が捜さずに済ませる法があろうか、まただれそれ、だれの娘の行くえが知れぬとか、または人を怨《うら》んで尼になったとか自然|噂《うわさ》にはなるものであるがと返す返すいぶかしく思われた。尼になってもこんな美しい人は決して愛人にして悪感《おかん》の起こるものではあるまい、かえって心が強く惹《ひ》かれることになるであろう、極秘裡《ごくひり》にやはりあの人を自分のものにしようと、こんなことを心にきめた中将は、こちらの尼君の座敷に来て、気を入れて話をしていた。
「俗の人でおいでになった間は、私と御交際くださるにもいろいろさしさわりがあったでしょうが、落飾されたあとでは気楽につきあっていただける気がします。そんなふうにあなたからもお話しになっておいてください。昔のことが忘られないために、こんなふうに御訪問をしていますが、またもう一つ友情というものを持ち合う相手がふえれば幸福になりうるでしょう」
 などと言った。
「将来がどうなるかと心細く、気がかりでなりませんのに、厚い御
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