すか、何を恥ずかしく思うことをしますか、人間の命のある間は木の葉の薄さほどのものですよ」
 こう説き聞かせて、「松門暁到月徘徊《しようもんあかつきにいたりてつきはいくわいす》」(柏城尽日風蕭瑟《はくじやうひねもすかぜせうしつ》)と僧であるが文学的の素養の豊かな人は添えて聞かせてもくれた。唐の詩で陵園を守る後宮人を歌ったものである。かねて願っていたようなよい師であると思って姫君は感激していた。
 ある日風がひねもす吹きやまず、寂しい音が立っていたから、心細くなっている時に、来ていた僧の一人が、
「山伏《やまぶし》というものはこんな日にこそ声を出して泣きたくなるものだ」
 と言っているのを聞き、姫君は自分ももう山伏になったのである、だから涙がとまらないのであろうと思いながら、縁側に近い所へ出て外を見ると、軒の向こうの山路《やまみち》をいろいろの狩衣《かりぎぬ》を着て通るのが見えた。叡山《えいざん》へ上がる人もこの道を通るのはまれであって、黒谷という所から歩いて行く僧の影を時々見ることがあるだけだったのに、普通の服装の人を見いだしたのは珍しく思われたのであったが、それは失恋した中将であった。
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