従は言い、姫君の最後が普通の死でないことをほかへ洩《も》らすまいとしていても、自然に事実は事実として人が悟ってしまうことであろうと思い、[#「、」は底本では「。」]こんな会談を長くしていることも避けねばならぬと思う心から時方を促して去らしめた。
雨の降る最中に常陸《ひたち》夫人が来た。遺骸があっての死は悲しいといっても無常の世にいては、どれほど愛していた人でもある時は甘んじて受けなければならぬのが人生の掟《おきて》であるが、これは何と思いあきらめてよいことかと悲しがった。苦しい恋の結末をそうしてつけたことなどは想像のできぬことで、身を投げたなどとは思い寄ることもできず、鬼が食ってしまったか、狐《きつね》というようなものが取って行ったのであろうか、昔の怪奇な小説にはそんなこともあるがと夫人は思うのであった。また常に恐れている大将の正妻の宮の周囲に性質の悪い乳母というような者がいて、薫《かおる》が浮舟をここへ隠して置いてあることを知り、だまして人につれ出させるようなことがあったのではあるまいかと、召使いに疑いをかけて、
「近ごろ来た女房で気心の知れなかったのがいましたか」
と問うた。
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