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「旅寝してなほ試みよをみなへし盛りの色に移り移らず
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そのあとであなたをどんな性質で、お堅いともそうでないとも、きめましょう」
とも言う。
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宿貸さば一夜は寝なんおほかたの花に移らぬ心なりとも
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薫が言ったのである。
「私を侮辱あそばすのでございますね。自分のことではございませんよ。一般的に抗議を申し上げただけでございます」
と弁は言う。こんなふうに戯れ言も薫は長くは言っていないらしく見えるのを若い女房たちは飽き足らず思っていた。
「思いやりのないことをしましたね。あなたの道をあけましょう。とりわけて私に顔をお見せにならない態度には理由のあることでしょう」
と言い、薫の立って行くのを見て、だれもが弁のようにはしゃぐ者のように思われぬかと気にする人もあった。東の高欄によりかかって、叢《くさむら》の中に夕明りを待って咲きそめる花のある植え込みを薫はながめていた。何も皆身にしむように思われる薫は、「就中断腸是秋天《なかんづくはらわたをたつはこれあきのてん》」と低い声で口ずさんでいた。先刻の人らし
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