せておしまいになり、命もなくしたのではないかと思う。隠さずに真実を言ってくれ。自分に少しの欺瞞《ぎまん》もないことを言ってほしい」
と薫《かおる》の言うのを聞いて、確かなことを皆知っておしまいになったようである、この方もお気の毒であるし、故人もおかわいそうであると右近は思った。
「情けないことをお聞きあそばしたものでございますね。右近がおそばにおらぬ時といってはございませんでしたのに」
と言い、右近はしばらく黙っていたが、
「そんなこともお聞きになっていらっしゃいましょうが、お姉様の二条の院の奥様の所へ行っておいでになりました時、思いがけずそのお部屋《へや》へ宮様がお見えになったことがあるのでございますが、失礼なことも皆でいろいろ申し上げましてお立ち去りを願ったのでございました。実はそれを恐ろしいことに思召して、あの三条の仮屋《かりや》のような所にしばらくお住いになったのでございます。それからは決してお在処《ありか》をお知らせしますまいと警戒をいたしておりましたのに、どういたしましたことか今年《ことし》の二月ごろからおたよりがまいるようになりました。お手紙はたびたびまいったのですが
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