んなお心持ちをそれとなく私どもへ始終言ってお歎きになりました。それ以外に何があるかと考えましても、何も思い当たることはございません。鬼が隠すことがありましても片端くらいは残すでしょうのに」
 と言って右近の泣く様子は、見ていても堪えられなくなるほどのものであったから、宮との例の恋愛の事実は無根でないらしいと悟った時から少し紛れていた薫の悲しみがよみがえり、せきあえぬふうにこの人も泣いた。
「自分の身が自分の思っているとおりにはできず、晴れがましい身の上になってしまったのだから、逢って慰めたいという心の起こる時も、そのうち近くへ呼び寄せ、家の妻にも不安を覚えさせないようにしてから、長い将来を幸福にしたいと、自分をおさえてきたのを、誠意がなかったように思われたのも、かえってあの人に二心があったからではないかという気がされる。もうそんなことは言わずにおこうと思ったが、だれも聞いていないのだから事実を私に聞かせてくれ、それは兵部卿《ひょうぶきょう》の宮様のことだ。いつごろからのことだったのか、恋愛の技術には長じておいでになる方だから、女の心をよくお引きつけになって、始終お逢いできぬ歎きがこうさ
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