が幾人も立ち合ってなどとあとに言われることを避けて急いでしたのであろうがと不愉快に薫は思った。くわしい様子も聞かないでいることも物足らず思われ、自身で宇治へ行ってみたいと思うのであるが、喪の家へそのまま忌の明けるまで籠《こも》っているのも自分としてははばかられる、行くだけ行ってすぐに帰るのも心苦しいことであると思いもだえていた。
 月が変わって、今日は宇治へ行ってみようと薫の思う日の夕方の気持ちはまた寂しく、橘《たちばな》の香もいろいろな連想《れんそう》を起こさせてなつかしい時に、杜鵑《ほととぎす》が二声ほど鳴いて通った。「亡《な》き人の宿に通はばほととぎすかけて音《ね》にのみなくと告げなん」などと古歌を口にしたままではまだ物足らず思われ、二条の院へ兵部卿の宮の来ておいでになる日であったから、橘の枝を折らせて、歌をつけて差し上げた。

[#ここから2字下げ]
忍び音《ね》や君も泣くらんかひもなきしでのたをさに心通はば
[#ここで字下げ終わり]

 宮は中の君の顔の浮舟によく似たのに心を慰めて、二人で庭をながめておいでになる時であった。言外に意味のあるような歌であると宮は御覧になり、

[#ここから2字下げ]
橘の匂《にほ》ふあたりはほととぎす心してこそ鳴くべかりけれ

[#ここから1字下げ]
なんだかかかりあいのあるようなことが言われますね。
[#ここで字下げ終わり]
 とお返事をあそばした。宮と浮舟の姫君の関係もまたその人の死も何に基因するかも今は皆わかってしまった中の君は、姉の女王《にょおう》も妹の姫君も物思いがもとで皆若死にをしたあとに、自分だけが残っているのは感情の鈍《にぶ》い質であるからであろうか、それといってもいつまでも生きていられることかと心細く思った。宮も隠してお置きになっても、いずれは知れてしまうことであるのに、隔てを置いたままでいるのは苦しいことであると思召して、浮舟との関係を少しは取り繕って夫人へお話しになった。
「だれであるのかをあなたがどこまでも隠そうとしたのが恨めしかったために反発《はんぱつ》的にそんなことにまで進んでしまったのですよ」
 など、泣きも笑いもしながらお語りになる相手が、恋人の姉であることにお慰みになるところも多かった。形式が簡単でなく、ちょっとお身体《からだ》の悪いことのあっても騒ぎがはなはだしくなり、見舞いに集まる人も多
前へ 次へ
全40ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング