の風俗であるなどと言ったり、いずれにもせようれしくない取り沙汰《ざた》を人はした。そうした階級の人がどう思ったかということさえもつつましいこの場合に、大将が遺骸も残さず死んだと聞いては必ずどこかへ失踪《しっそう》をしてしまったことと疑うであろうし、親族関係の濃い宮様のほうへその話の伝わってゆかぬはずもない、その時に宮がお隠しになったと大将は思うまい、どんな人が隠しているかと思い想像もされるに違いない、生きていた間は高い貴人たちに愛される運命を持った人が、死後に醜い疑いをかけられるのはもってのほかであると女房らは思い、山荘の中の下人たちにも今朝《けさ》姫君の姿の見えなかった騒ぎに、思わずも実相を悟らせることになった者らへは口堅めを厳重にし、知らなかったのにはあくまでも普通の死であったように取り繕うことに侍従と右近は骨を折った。時間がたったのちには浮舟の姫君が死を決意するまでの経過を宮へも大将へもお話しすることができようが、今は興ざめさせるような死に方を人の口から次へ次へと聞こえることは故人のために気の毒であると思い、この二人が自身らの責任を感じる心から深く隠すことに努めた。
この時に薫は母宮が御病気におなりになって石山寺へ参籠《さんろう》をあそばされるのに従って行っていて騒がしく暮らしていたのであった。京よりもまだ遠くにいて宇治のことが気がかりでならぬ薫でもあったが、はかばかしく消息をする人もなかったために、葬儀にも大将家の使いの立ち合わなかったのは山荘の人々の情けなく思うところであったが、荘園の人が石山へ行ってはじめて姫君の死は薫へ報じられたのであった。使いはその翌日の早朝に宇治へ来た。
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非常なことの起こったしらせを受け、すぐにも自分で行くべきですが、母宮の御病気のために日数をきめて籠《こも》っているために、それも実行ができません、昨夜にもう葬送を行なったということですが、なぜそれは私へ相談をしませんでしたか、そして日を延べることが普通ではありませんか。しかも簡単に儀式をしてしまったと聞いて残念に思います。どうしてもこうしても同じことですが、一人の人間の最後の式ですから、田舎《いなか》の人たちの譏《そし》りを受けたりすることになっては、自分のためにも迷惑です。
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と、あの親しく思っている大蔵|大輔《たゆう》を使いに
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