る場所というようなものもなくて、田舎家の垣根《かきね》の雑草の中にあふり[#「あふり」に傍点]というものを敷いて、そこへ宮をおおろしした。宮もこんな所で災厄《さいやく》にあって終わる運命で自分はあるのかもしれぬとお思われになり非常にお泣きになった。心の弱い者はましてきわめて悲しいことであるとお見上げしていた。どんな仇敵《きゅうてき》でも、鬼であっても、そこなえまいと見える美貌《びぼう》をお持ちになるはずである。しばらく躊躇《ちゅうちょ》をあそばしてから、
「ちょっとひと言だけ話をすることもできないのだろうか。どうして今になってそんなに厳重に見張るのだろう。そばの者がどんなことを言ってあの方の自由意志を曲げさせたのか」
と侍従へ仰せられた。山荘内のことをくわしく申し上げて、
「またおいでの思召しのございます前からおっしゃってくださいまして、私どもにできますことをさせてくださいませ。こんなもったいない御様子を拝見いたします以上、私は自分を喜んで犠牲にもいたしまして、よろしい計らいをいたします」
と侍従は申した。御自身も人目をはばかっておいでになるのであるから、恋人をだけお恨みになること
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