常に去らない幻がまたありありと見えて、悲しかった。宮のお手紙を顔に押しあててしばらくは忍んで泣いていたが、そのうち声にも出してひどく泣いた。右近が、
「お姫様はこんなふうにしていらっしゃいますと人が皆悟ってしまいます。近ごろは不審を起こしかけた人たちもあるようでございます。こんなに一つのことを断ち切れない御心配になさいませんで、宮様へは御同意なさいましたことを書いておあげなさいましよ。私がおります以上、どんな大それたことでございましても取り繕いまして、こんなお小さいお身体《からだ》一つは空からでもおつれ出しいたします」
と言うのを聞いて、
「そんなふうに私の心を解釈されるのが苦しい。そうしたいと私が望んでいるのならそれでいいけれど、してはならないことだと、どんなことも皆私は否定しているのに、このお手紙のように信じていらっしゃるのかと思うと、あの方はこれからのちにまたどんなことをあそばすだろうと不安でならなくて、私は今運命を悲しんでいるのよ」
と浮舟は言い、お返事は書かなかった。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は出奔してくることを浮舟が受諾して来ないし、返事さえ一つ一つは書いてよこさ
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