た。
伴ってお行きになった中の君に、
「私は身体《からだ》のぐあいが非常に悪い。これでだめになってしまうのではないかと心細いのですよ。私は非常にあなたを愛して死んで行っても、死んだあとであなたの心はすぐに変わってしまい、他の人を愛するようになるのでしょう。人間の一念というものはいつか成就するものだから、あの人だってそうだ。願いのかなう日があるに違いない」
とお言いになった。こんな奇怪なことを至極まじめにお言いになるではないかと中の君は思い、
「こうした醜い疑いを持っておいでになることを大将がお聞きになれば、何か中傷をしたかと私の思われますのがあさましゅうございます。薄幸な私はただいじめるために言っていらっしゃることでも重大なことのように苦しみます」
と言って、夫人はあちらへ顔を向けた。宮も真剣なふうにおなりになって、
「いじめるためなどでなく、真底からあなたを恨んでいることが私にあったらどうしますか。私はあなたのために決して薄情な良人《おっと》でなかったはずだ。珍しいとまで世間で言われているくらいですよ。それだのに、あなたはあの人ほどに私を愛していてくれない。それも宿縁によることだろうとは思うけれど、私に正直なことを言ってくれない点が恨めしくてならない」
と言っておいでになりながら、その宿縁が並み並みでなかったから思う人に再会することができたとお思われになることで涙ぐまれたもう宮であった。いつものように冗談《じょうだん》混じりのことでなく、どこまでもまじめでおありになるのが気の毒で、どんな噂《うわさ》をお聞きになったのであろうと驚かれる夫人は、返辞もできなくなってしまった。初めがあんなことであった自分は良人《おっと》の尊敬に値せぬように思われているのであろう、姉の女王《にょおう》への恋のために常識も失うばかりであった人が、導いて結ばせた縁であって、自分はまた姉の死後にまで持たれる誠意に好感を持つようになったことが原因で、愛を失った妻になったのであろうと過去のことも思われて、いろいろなことが皆悲しくて心をめいらせている中の君はいよいよ可憐《かれん》な人に見えた。
あの恋人を発見したとはなおしばらくの間知らせずにおこうとお思いになるために、ほかのことに思わせて宮は怨言《えんげん》を洩《も》らしておいでになるのを、中の君はただ薫《かおる》のことでまじめに恨みを告げておいでになるものと思い込み、だれが嘘《うそ》をほんとうらしく言ったのであろうなどと思っていて、無根のことは無根のことであると宮のお認めにならぬ間は、妻としていっしょにいることも恥ずかしいと考えられた。
御所から中宮のお手紙の使いがまいったと申し上げられた時に、驚いてお起きになった宮は、まだ解けないお気持ちのままで御自身の室のほうへ行っておしまいになった。
お手紙の内容は昨日お逢いになれなかったことで御心配をあそばしたことが言われてあるのであった。
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気分がよろしければおいでなさい。久しくお逢いしないでいるのですから。
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などと言うものであったから、御心配をおさせ申すのは苦しいと思召しながら、実際病気らしい御気分であったためその日は参内されなかった。高官たちが幾人も伺候したが皆|御簾《みす》の外へまでお来させになっただけであった。
夕方に源大将が出て来た。こちらへとお言いになって、御自身のそばへこの時はお迎えになった。
「御病気でいらせられますそうで、中宮様もお逢いあそばせないのを寂しく思召すふうでございました。どんな御症状ですか」
と薫はお尋ねした。顔を御覧になった時から胸騒ぎのひどくなったため、言葉少なに宮は相手をしておいでになった。僧がかった人とはいいながらも、人間的な感情を人の学びがたいまでにも殺している男ではないか。あれほど可憐な人に寂しい山荘住まいをさせ、日々待ち暮らさせているようなこともこの人にはできるのであるなどと宮はお思いになり、平生はそんな話でない時にさえ、まじめ男であることを薫は標榜《ひょうぼう》しているが、こんなことがあるではないかなどと微細なことまでもあげてお責めになる宮でおありになったから、宇治の人を発見された以上は、どんなにそれでおからかいになるかもしれないのに、今日は冗談《じょうだん》も口へお出しになることはなくて、苦しい御様子が見えるため、
「困ったことでございますね。たいしてお悪いのではなくて、しかも同じような容体の続きますのは悪い兆候でございます。風邪《かぜ》をまずお癒《なお》しになる必要がございますよ」
などとまじめに見舞いを言いおいて薫は帰った。上品な男である、あの人と自分をどんなふうにあの恋人は比較して見ることだろうなどと、何事も宇治の人を離れては思うことのおでき
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