うとも意に介しない覚悟ができていた。姫君ははなはだしい衝動を受けたあとで、失心したようにうつ伏しになっていたのを、
「石の多い所は、そうしていれば苦しいものですよ」
 と言い、薫は途中から抱きかかえた。薄物の細長を中に掛けて隔ては作ってあったが、はなやかに出た朝日の光に前方も後方もあらわに見えるようになってからは、弁は自身の尼姿が恥じられるとともに、薫を良人《おっと》として大姫君のいで立って行くこうした供をする日を期していたにもかかわらず、その女王《にょおう》は亡《な》くなってしまい、長生きをした咎《とが》に意外な姫君と薫の同車する片端にいることになったと思われることで悲しくなり、隠そうとするのであるが悲しい表情の現われて、泣きもするのを侍従は憎らしがった。縁起を祝う結婚の初めに、尼姿で同車して来たのさえ不都合であるのに、涙目まで見せるではないかと蔑《さげす》んだ。弁の感情がどう細かに動いているかも知らず、老人は泣き虫であるからしかたがないと思うからである。薫も姫君を愛すべき人とは見ているのであるが、秋の空の気配《けはい》にも昔の恋しさがつのり山を深く行くに従って霧が立ち渡っているよう
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