なることもあるでしょうから、伺わないわけにはまいりません。そっと来てそっと帰ったなどとお思われましても義理が立ちません」
と言い、同行をしようとしないのであったが、すぐに中の君に今度のことを聞かれるのも心恥ずかしいことに薫は思い、
「それはまたあとでお目にかかってお詫《わ》びをすればいいではありませんか。あちらへ行って知っている者がそばにいないでは心細い所ですからね。ぜひおいでなさい」
と薫はいっしょにここを出ていくように勧めた。そして、
「だれかお付きが一人来られますか」
と言ったので、姫君の始終そばにいる侍従という女房が行くことになり、尼君はそれといっしょに陪乗《ばいじょう》した。姫君の乳母《めのと》や、尼の供をして来た童女なども取り残されて茫然《ぼうぜん》としていた。
近いどこかの場所へ行くことかと侍従などは思っていたが、宇治へ車は向かっているのであった。途中で付け変える牛の用意も薫はさせてあった。河原を過ぎて法性寺《ほうしょうじ》のあたりを行くころに夜は明け放れた。若い侍従はほのかに宇治で見かけた時から美貌《びぼう》な薫に好意を持っていたのであるから、だれが見て何と言お
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