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と言い、雨を払うために振った袖の追い風のかんばしさには、東国の荒武者どもも驚いたに違いない。
室内へ案内することをいろいろに言って望まれた家の人は、断わりようがなくて南の縁に付いた座敷へ席を作って薫《かおる》は招じられた。姫君は話すために出ることを承知しなかったが、女房らが押し出すようにして客の座へ近づかせた。遣戸《やりど》というものをしめ、声の通うだけの隙《すき》があけてある所で、
「飛騨《ひだ》の匠《たくみ》が恨めしくなる隔てですね。よその家でこんな板の戸の外にすわることなどはまだ私の経験しないことだから苦しく思われます」
などと訴えていた薫は、どんなにしたのか姫君の居室《いま》のほうへはいってしまった。
人型《ひとがた》としてほしかったことなどは言わず、ただ宇治で思いがけぬ隙間《すきま》からのぞいた時から恋しい人になったことを言い、これが宿縁というものか怪しいまで心が惹《ひ》かれているということをささやいた。可憐《かれん》なおおような姫君に薫は期待のはずれた気はせず深い愛を覚えた。
そのうち夜は明けていくようであったが、鶏《とり》などは鳴かず、大通り
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