わずかに目をすきから出して外がうかがえるくらいにも手道具を並べ立て、琴や琵琶の稽古《けいこ》をさせるために、御所の内教坊《ないきょうぼう》辺の楽師を迎えて師匠にさせていた。曲の中の一つの手事が弾《ひ》けたといっては、師匠に拝礼もせんばかりに守は喜んで、その人を贈り物でうずめるほどな大騒ぎをした。派手《はで》に聞こえる曲などを教えて、師匠が教え子と合奏をしている時には涙まで流して感激する。荒々しい心にもさすがに音楽はいいものであると知っているのであろう。こんなことを少し物を識《し》った女である夫人は見苦しがって、冷淡に見ていることで守は腹をたてて、俺《わし》の秘蔵子をほかの娘ほどに愛さないとよく恨んだ。
 八月にと仲人から通じられていた左近少将はやっとその月が近づくと、同じことなら月の初めにと催促をして来た時、守の実の子でなく、母である自分一人が万事気をもんできた娘であることを言い、その真相を前に明らかにしておかねば婿になる人は、そんなことでのちに失望をすることがあるかもしれぬと思い、夫人は初めから仲へ立っていたその男を近くへ呼んで、
「今度お相手に選んでくださいました子につきましては、
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